東京ディズニーランドのシンデレラ城を望む広場で、伸吾(しんご)はそわそわと人混みを見渡していた。今日こそ、理恵(りえ)に想いを告げる。流れるBGM、弾ける笑顔、色とりどりの風船――まるで夢の中にいるようなこの場所で、かつての不安と痛みはもう遠い記憶だった。
二人が出会ったのは大学のサークル。当時、理恵は家族の問題で笑顔を見せることが少なく、伸吾は伸吾で、将来の進路に迷い、どこか自分に自信を持てないでいた。それでも少しずつ話を重ね、共通の好きな映画はディズニー作品だと分かったとき、二人は初めて同じ方向を見つめるようになった。だが、理恵の両親は彼女が就職を機に実家を離れることを強く反対しており、伸吾の父親も息子が芸術関係の仕事につくことを良しとせず、家族の期待と自分自身の夢が激しくぶつかりあっていた。
そんなとき、二人は一度だけディズニーランドへ足を運んだ。コーヒーカップを回しながら、「ここに来ると不思議だよね」と理恵はぽつりと言った。「夢が遠いものだと思っていたけど、ここでは手を伸ばせば届きそうな気がする」――その言葉に、伸吾は初めて「自分たちの未来も悪くない」と感じた。二人はその日、心がほどけるのを感じながらパレードを見上げ、花火の光の中で互いに笑顔を交わした。
時は流れ、その後も波乱は続いた。親との対立、転職や引っ越し、すれ違いの会話――小さな衝突が山のように積み重なったが、そのたびに二人は背中合わせに立ち、支え合ってきた。理恵の実家へ二人で挨拶に行くたび、険悪な空気が流れながらも、少しずつ和らいでいった。伸吾の父がたまたま理恵に「息子を頼むよ」とぽつりとつぶやいたとき、彼はやっと自分が認められた気がした。
そして今、再び東京ディズニーランドの地を踏んだ。前回訪れたときよりも、空は澄み、風は柔らかい。クリスマスシーズンの飾り付けはキラキラと輝き、シンデレラ城の前には無数のカップルや家族が笑い声を響かせている。伸吾はカバンの中で小さな指輪ケースを確かめてから、城の前で待ちぼうけを食っている理恵の元へ急ぐ。理恵はトナカイの角を模したカチューシャを頭につけ、少し緊張した面持ちでこちらを見つめていた。「遅いよ、何してたの?」と普段と変わらない軽やかな声。
「ちょっと、心の準備してた」と伸吾は照れたように笑う。手をつなぎ、二人はパレードの始まりを待つ。
華やかなフロートが通り過ぎ、光る衣装のキャラクターたちが手を振る。その瞬間、伸吾は小さく深呼吸をした。「あのさ」と口を開くと、理恵は「なに?」と笑顔で振り向く。背景には夢と希望に満ちたディズニーの景色、乗り越えてきた日々の重さが嘘のような、軽くて温かな空気が漂う。
「僕たち、これからも一緒に夢を見続けようよ」――伸吾は震える手で小箱を取り出した。理恵の目はゆっくりと見開かれ、その瞬間、花火が空を彩る。二人が乗り越えた過去は、今この場所で、新たな物語の始まりを告げていた。