中学3年生の春、陽介は母とディズニーランドへ行った。ディズニーは、陽介にとって特別な場所だった。小さい頃から母が何度も連れて行ってくれて、思い出が詰まった場所だからだ。
その日も、アトラクションを楽しみ、パレードを見て、二人で笑い合った。しかし、母がベンチに座り「ちょっと休憩しようか」と言ったとき、陽介はふと気づいた。母が少し疲れているように見えたのだ。
「大丈夫?」と陽介が聞くと、母は笑顔で「大丈夫よ」と答えた。その笑顔はどこか弱々しく見えたが、陽介は深く考えずにその場を過ごしてしまった。
高校生になった陽介は、ある日ふと思い立ち、母にこう提案した。
「久しぶりにディズニー行こうよ!」
ところが、母の返事は予想外だった。「歩くのがキツくなっちゃってね」と苦笑いする母。その言葉に陽介はハッとした。元気だと思っていた母が、少しずつ年齢を重ねている事実に気づいたのだ。
思い返せば、数年前のディズニーでも、母は疲れた様子を見せていた。そのとき陽介は気にも留めなかったが、今となっては胸が痛む。「自分ばかりが成長していて、母が歳を重ねていることに気づいていなかった」と、陽介は反省した。
「次は俺が計画するよ!」陽介は母にそう宣言した。
大学生になった陽介はアルバイトを始め、少しずつお金を貯めた。そして、母をもう一度ディズニーランドに連れて行く計画を立てた。今回は、母が無理をしないように万全の準備を整えた。
歩きやすいルート、休憩できるスポット、美味しいレストランまでしっかりリサーチ。「楽しませる」というより、「安心して過ごせる」ことを重視した。
迎えたディズニーランドの日。母は「こんなに気を使わなくていいのに」と笑ったが、陽介のサポートのおかげで終始リラックスして楽しんでいる様子だった。二人でパレードを見て、昔の思い出話をしながら食事を楽しむ。その穏やかな時間に、陽介は心から幸せを感じた。
帰り道、母がふと呟いた。
「ありがとうね。今日、すごく楽しかったよ。あなたがこうして一緒にいてくれるだけで、本当に幸せ。」
その言葉に陽介は胸が熱くなり、「俺も、母さんが元気でいてくれるだけで嬉しいよ。これからも一緒にいろんなことしよう」と答えた。
陽介にとって、この一日は忘れられない特別な日となった。親孝行を「いつか」と先延ばしにせず、母が元気なうちに行動に移せたことを心から誇りに思った。
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